夏の午後とアロマの風
私が働く「京都」は、夏になると、街全体が熱を帯びたように感じられます。石畳に照り返す強い日差し、ゆらめく陽炎、そして川面から吹く風さえも、べたりと体にまとわりつくようです。古都ならではの風情がある一方で、その暑さは実に厳しく、京都の夏は五感すべてで「暑さ」を体感させてくれます。
それでも、京都の人々は昔から、静かに、そして美しく「涼」を楽しむ工夫を重ねてきました。町家の軒先に吊るされた風鈴の音、打ち水でしっとりと濡れた石畳、すだれ越しに差し込むやわらかな光。どれもささやかですが、暑さの中に穏やかな「涼」をつくり出す知恵が詰まっています。
けれど、暑いものは暑い。
室内に戻ると、つけたまま外出していた冷房の風に迎えられ、思わずふっと息をつきました。しかし、ただ冷たい風に当たっているだけでは、どこか物足りなさを感じてしまいます。気持ちまで涼しくなるには、もうひと工夫が欲しいところです。
そんなとき、私は数本のアロマオイルを取り出します。ペパーミント、ユーカリ、レモン…。それぞれの香りを試しながら、夏に似合うブレンドを選びます。この日は、ペパーミントとユーカリを少し強めに、そこへレモンの爽やかさを加えました。ディフューザーにたらしていくと、たちまち部屋の空気が変わり、爽やかな風が吹き始めました。
暑さというものは、逃げようとすればするほど追いかけてくるように思います。でも、ほんの少し感覚を変えてみるだけで、同じ夏が幾分心地よく感じられるのです。アロマの香りは、そんな小さな工夫の代表かもしれません。
そして、冷房だけに頼らず、香りという目に見えない風で涼をとる。そんな工夫が、心と身体のどちらにもやさしい夏を運んでくれるような気がします。アロマは、現代の暮らしに溶け込んだ新しい「納涼」と言えるでしょう。
窓の外からは、終業の鐘の音が聞こえてきます。深く香りを吸い込みながら、私は目を閉じ、今日の京都の町の風景を思い返します。体はクーラーの涼しさに守られ、心はアロマの香りに包まれて、ふっと軽くなった気がしました。
猛暑のなかに、自分だけの涼を見つけること。
それは、ほんの少しだけ、日々を丁寧に暮らすということなのかもしれません。